アラームとマジシャンとぬくもりと

ゆっくりと
カチカチと
のんびりと

音を鳴らし、私は歩きます。

壊れた音を、私は奏でます。



『パシュン』

誰か人間がこの時計塔3階へと足を踏み入れた音…
ワープしてきた音とでも言うのでしょうか。

明らかに太く硬い筋肉がついた腕を揺らしながら私の仲間が人間…冒険者に向かって壊れたように歩いていくのが見えました。

あぁ、あの子も壊れちゃう…

冒険者はよく此処へと私の仲間を壊しにくるウィザードでした。
私は無骨な仮面で変えることも叶わなくなった顔を変えれるのであれば…きっと、顰めていたでしょう。

バシッ、ガッガランッ

金属が床に落ちる音がしました。
仲間が、壊されたのです。
ひょいひょいと冒険者は収集品と呼ばれているらしい私たちの身体の部品を拾い上げ、それを袋に詰め込む様子を私は見ていました。

『パシュン』

また誰か来ました。
今度は見かけないマジシャンです。
ビクビクと臆病に震えながらも足を踏み入れたこともないのだろうこの地を確かめるように一歩一歩、歩いて来ました。
カタカタカタ、という私たちが奏でる壊れた音を耳にすればビクリと肩を弾ませます。
あんなにも初々しいマジシャンを見るのは久々で、思わず私はカタカタと身体を鳴らし笑ってしまいました。
その音を聞いたマジシャンは怖いのでしょうか、瞳にいっぱい涙を溜めてこちらを見ます。

気付いたのですね…

この地を離れる時が私にもやってきたようです。
神様、何故貴方は私にだけ……
狂ったように冒険者に向かい歩く私の仲間。
その中に私と同じように感情を持つものは存在しませんでした。
そう、私だけ…

ギ、と油が足りていないのか、部品が軋む音がしました。
結構、痛いです。
私はゆっくりとマジシャンに歩み寄りました。
震えながらも呪文を間違えぬようにとファイアーウォールを唱える彼に私は目を細めました。
ドンッ、と目の前に炎の壁が立ちふさがります。
当たれば、熱いだろうな

そんな悠長なことを私は考えました。

バシッ

炎の壁に身体を掠めました。
やはり熱く、とても痛いです。
マジシャンは震えながら少し呪文が長い魔法…ファイアーボルトを唱えていました。
しかしその背後には先程の私の仲間を壊したウィザードが私の仲間を5体程連れて走ってきました。
マジシャンへと向かってきます。
私は危険を感じ熱いのを我慢しつつファイアーウォールを抜けました。
マジシャンは背後に気付いておらず、ウィザードはマジシャンに気付かれる前に
予め用意していたのだろうワープアイテムを掌の上で握り潰し、飛んでしまいました。
残された5体の仲間は当然マジシャンへと向かっていきます。
嫌な予感は的中しました。
あのウィザードはよくトレイン、と呼ばれる行為をしてマジシャンや他のウィザード達を殺して廻っている…
いわば最悪な人間です。

ファイアーウォールを突き抜けた私は震えるマジシャンの横を通り過ぎ、持ち前の大きな身体でマジシャンの盾となりました。
しかし同じ大きさの仲間が5体も居ては防ぎ切れません。
私は仲間の攻撃を背に受けながらマジシャンの腕を掴み、床へと座り込んでいた足を立たせました。

早く、逃げて

必死にそう伝えようとしましたが、言葉も話せない私が伝えることなど出来ません。
腕を掴まれ驚いた風にきょとんとし、私を見ていたマジシャンは何か意を決したように私の向こうにいる仲間をキッと睨みつけました。
私はマジシャンを逃がそうと必死になりましたが頑として動こうとせず、マジシャンは何か呪文を唱えました。

『ドンッ』

仲間からの攻撃に耐えきれず壊れるかと自覚した瞬間、私と仲間を隔てるように炎の壁が立ち上りました。
私が庇っていたマジシャンがファイアーウォールを張ってくれたのです。
予想もしていなかったマジシャンの行動に私は呆けました。
が、マジシャンは慌てるように私の腕を引っ張り走り出しました。
ファイアーウォールの向こうの仲間は此方へ来れず、その場で立ち竦んでいました。
…少し、胸が痛みました。


ライドワードもミミックも…勿論私の仲間も来ないような、安全な場所へとマジシャンと私は着きました。
元々体力がないマジシャンにはかなりの長距離を走ったことになるんでしょうか。
床に座り込み胸に手を押し当て苦しそうに息をしています。
やがて落ち着いたのかこほん、とひとつ咳払いをすればじっと私を見つめます。
私はカタカタと身体を鳴らして応えることしか出来ませんでした。
どれくらいの時間か睨めっこを続ければマジシャンはそっと私の手に触れてきました。

「さっきは…ありがとう」

恥ずかしそうにお礼の言葉を述べるマジシャン。
私は何の事かわからずカタカタと身体を鳴らしました。
私がわかっていないことに気付いたのかマジシャンはムッと眉を顰めました。
「だから、さっきの…君の、仲間から…」
段々と声が小さくなっていきます。
私はきょとんとしてしまいましたがカタカタと身体を鳴らし構わない、と告げました。
ちゃんと届いていたらいいのですが…
「俺、何度もアラームに殺されかけて…だから此処に来るの、怖かった」
ふる、とマジシャンは身震いました。
「でも君が助けてくれたから……ありがとう」
私の手に添えられたマジシャンの手に少し力が篭もりました。

暖かかったです。



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